ビジネスパーソン向け対話型鑑賞

感性的思考を高める対話型鑑賞を!

対話型鑑賞(ダイアログベースのアプローチ)は、鑑賞者がアート作品を鑑賞する過程で、他の鑑賞者やファシリテーターと対話を通じて作品についての理解や感想を深める方法です。1980年代半ばにアメリカのMoMA(ニューヨーク近代美術館)で開発された作品の鑑賞方法の1つです。
「みる・かんがえる・はなす・きく」というコミュニケーションの基本を軸に据え、「事実」と「解釈」の間にあるミスコミュニケーションを減らす手法を身につけるワークショップです。正解のないアート作品を鑑賞しながら「遊ぶように学ぶ」ことができます。

美術館での作品鑑賞とは、これまで作品の近くに掲示されているキャプションなどを元に鑑賞してきました。会話などせず、作家の背景や作品の特徴などを読んでから、確認作業として作品を観て、受動的に理解してきました。
対話型鑑賞では美術の知識ではなく、その場で感じた感想や想像を元に参加者と対話を行う点が特徴です

代表的な対話型鑑賞法の「Visual Thinking Strategies(VTS)」を開発したニューヨーク近代美術館(MoMA)の元教育部長のフィリップ・ヤノウィンによれば、ファシリテーターからの問いかけによって、「鑑賞者は観察対象について話すことを促され、積極的な観察を活性化する。またこうした問いかけは作品に限らず、あらゆる未知の物事を検証し、論理的思考を構築するための初歩的な方法にもなる。」と著書の中で述べています。

対話型鑑賞によって、絵や写真など視覚的な情報を読み解く思考力観察力、それを言語化して伝えるためのコミュニケーション能力、また人の意見を聴く傾聴力などが培われます。子どもから大人まで、アートに親しんだことのない人でも作品を楽しむことができるため、近年では全国の美術館や学校教育などで広く活用されています。ビジネスマン向けに取り入れることで、個々の成長だけでなく組織全体のパフォーマンス向上にもつながるとして注目されています。

対話型鑑賞では、鑑賞者同士やファシリテーターとの意見交換が重視されます。この双方向コミュニケーションにより、鑑賞者は自分の考えを言葉にし、他人の意見を聞くことで新しい視点を得ることができます。鑑賞者が受動的に作品を見るのではなく、質問や感想を共有することで、鑑賞体験に積極的に参加します。これにより、より深い理解と感情的な関与が生まれます。

 

対話型鑑賞

鑑賞者の4つの態度

対話型鑑賞のプログラムでは「みる、かんがえる、はなす、きく」の4つのループを促しながら、深い鑑賞を導きます。「みる、かんがえる、はなす。きく」という基本的なことをしっかり行います。

対話型鑑賞

対話型鑑賞で論理的思考力がつく理由

対話型鑑賞では、論理的思考力(ロジカル・シンキング)や、批判的思考力(クリティカル・シンキング)を向上させます。

ファシリテーターは、次の3つの質問を鑑賞者に対して行うのが基本です。
①「この作品の中で、どんな出来事が起きているでしょうか?」
②「作品のどこからそう思いましたか?」
③「もっと発見はありますか?」

鑑賞者の発言は、①作品に対して思ったこと(解釈)を問います。
そして②の質問で、その解釈の「根拠」を聞いています。
これは論理的思考(ロジカル・シンキング)でいう「Why so?」(なぜそう思ったか?)です。
「何となく」とか、「特に理由はありません」では、作品をしっかりみていないことになるので、
観ていれば必ず、どこからそう考えるのかが応えられるものです。
「だって、・・・なんだから」のように。
これは、『物事』は『理由1』と『理由2』から構成される演繹法を使った思考整理を促す手法でもあります。
鑑賞者は「そのように見えるのは、作品の中の、〇〇と△△が要因です。」などと発言することによって論理的でわかりやすい説明になります。
周りでその意見を聴いている人にもわかりやすい説明となり、解釈を共有することができます。

一方で、理由(描いてあること)を基に解釈を導き出すこともできます。
「理由1」と「理由2」によって、その物事が起こるというのが「So What?」(そこから何を導く? だから何?)で、帰納法的な使い方になります。
「〇〇と△△、その2つの理由から、その作品は××という結論になります。」というような使い方をします。

③は、作品を満遍なくみてMECE(もれなく、ダブりなく)な鑑賞ができていると、気づいたことや考えたことがどんどんと発言されていきます。
全体をしっかりみていく、もれなく発見する姿勢を持ちます。気づいたことを自由に何でも話してもらい、まずは多面的に鑑賞できたことを集めてしていきます。そこから、徐々に質的な気づき、意味づけなどに話題が転換されていくのが自然な流れです。
全員で作品を鑑賞していく姿勢を持つと、鑑賞は作品の意図や価値が深く探索されていきます。

今、みている私たちが作品の意味を見つける主体者

作品の価値や意味は作家が意図した正解が一つあるわけではなく、鑑賞者が付加していくものなのです。つまり作品を鑑賞する人が、作品の価値やアート創造の重要な役割を担っているのです。正解にたどり着く見方や考え方ではなく、作品と向き合い、様々な価値を探り、感想を足していきながら新しい意味を見出していきます。まさに、主体的な鑑賞者の存在が作品の価値を高めていくのです。作品と私たち鑑賞者は深いコミュニケーションを通して豊かな時間や思考探索につながり、感性的思考が育まれていきます。1000年前の文化財が1000年前の人達のものではなく、わたしたちのモノとかわたしたちのコトになって、私達は当事者になるということなのです。

現在の変化の激しい複雑な社会において、論理的思考力だけではなく観察力・直観力・共感力といった感性的思考力の重要性が近年指摘されています。分析・論理・理性といった思考回路はやがてAIに取って代わられる領域であることへの危機感があります。絵を通じて作品の物語や世界観を想像すること、アートを通じて他者の感情や視点を理解することで、感受性と共感力が高まり、人間関係の質が向上します。共通のアート体験を通じてチームメンバーが一緒に学び、意見を交換することで、信頼関係と協力が強化されます。これにより、職場でのチームワークが向上します。正解のない時代と言われている現在で、それぞれのビジネスパーソンに問題解決能力やコミュニケーション力といった多角的な能力が必要とされている背景があるからです。また、アート鑑賞はストレス軽減やリラクゼーション効果があります。ビジネスマンにとって、日常のストレスから解放される貴重な時間となると考えられます。

「濃霧警報」ウィンスロー・ホーマー(1885年)の作品の意味づけワークより

対話型鑑賞のビジネス人材育成への可能性

アート作品を観ながら参加者同士が対話を繰り返す「対話鑑賞」は、「観る力」「考える力・感じる力」「言葉にする力」「聴く力」といったビジネスの現場で即座に活かせるスキルを鍛え、直観力を引き出すとされ、ビジネスへの応用開発が非常に高いものです。

対話鑑賞は、上記以外にも次のような特徴があります。
①手法が確立されている
②五感の中でも使い慣れた感覚である「視覚」によっている
③短時間でも実施可能である
④対面でもリモートでも実施可能である

VTSの共同開発者の心理学者アビゲイル・ハウゼンの論文では、5年間の対照観察の結果、VTSを学んだ生徒たちのほうがクリティカル・シンキング(批判的思考)を身につけることできたという検証がなされています。クリティカル・シンキング(批判的思考)とは、事実(エビデンス)を元に論理を組み立てたり、判断や新たな発想ができる思考法を言います。

さらに、組織に対しては次のような可能性を持っています。
「イノベーティブな組織風土」「ダイバーシティ意識の醸成」「当事者意識をもった全員参加の経営」「新規事業開発」を促せるでしょう。
参加者が感性的思考に習熟することで、理屈ではない、その人ならではの問題意識を発掘できるようになり、「高い当事者意識による新規事業開発」「内発的リーダーシップの醸成」も育んでいけるでしょう。

  • 作品についてのオープンな質問を通じて、ビジネスマンに自分の視点を深く考えさせ、他の人の視点を理解する訓練を行います。
  • グループでの対話を通じて、自分の考えを明確に表現し、他者の意見を尊重しながら議論を進める練習をします。
  • ミーティングやプレゼンテーションでの効果的なコミュニケーション能力が向上します。
  • グループでの対話型鑑賞を通じて、メンバー間の信頼関係と理解を深めます。
  • チームワークが向上し、プロジェクトや業務での協働がスムーズになります。
  • アート作品の多様な解釈を通じて、固定観念を破り、創造的な思考を促します。
  • 作品を鑑賞することで、自分や他者の感情を理解し、感情知能(EQ)や共感する能力を養います。
  • 人間関係の質が向上し、リーダーシップやマネジメント能力が強化されます。
  • アート鑑賞のリラクゼーション効果を利用し、忙しいビジネス環境から一時的に離れてリフレッシュします。

★当社では、企業内での対話型鑑賞ワークショップにファシリテーターを派遣いたします。
・集合ワークショップ  ・オンラインワークショップ
1回1作品:60分~90分

★京都芸術大学「対話型鑑賞ファシリテーター養成講座」で学んだ深月敬子が担当します。

お気軽にご相談、お問い合わせください。

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